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スタートアップの外注が失敗する本当の理由:「仕様」ではなく“意思決定”がない
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スタートアップの外注が失敗する本当の理由:「仕様」ではなく“意思決定”がない

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EEG Editorial

Content Team

受託開発の現場にいると、外注が行き詰まったときに必ず聞こえてくる言葉があります。 • 「仕様が曖昧だったから…」 • 「要件定義が弱かったから…」 • 「ドキュメントをちゃんと作れば…」 ……違います。少なくとも MVP〜PMF前 のスタートアップにおいて、外注失敗の主因はそこではありません。 私はIT受託開発の業界で25年以上、会社を経営してきました。ウォーターフォールが当たり前だった時代から、…

受託開発の現場にいると、外注が行き詰まったときに必ず聞こえてくる言葉があります。
• 「仕様が曖昧だったから…」
• 「要件定義が弱かったから…」
• 「ドキュメントをちゃんと作れば…」

……違います。少なくとも MVP〜PMF前 のスタートアップにおいて、外注失敗の主因はそこではありません。

私はIT受託開発の業界で25年以上、会社を経営してきました。ウォーターフォールが当たり前だった時代から、アジャイル、プロダクト開発、そして今のAIによる開発加速まで、現場の変化をずっと見てきました。

結論から言います。
外注失敗の多くは「仕様の穴」ではなく、「誰が、何を根拠に、いつ決めるか」が決まっていないことで起きます。

仕様は“結果”です。
意思決定が弱いと、仕様は永遠に固まりません。
AI時代になって開発スピードが上がれば上がるほど、ボトルネックはコードではなく「決めること」になります。

仕様が曖昧なのは、スタートアップでは“正常”です

MVP〜PMF前は、プロダクトの正解が分かりません。
• どのユーザーが本当に使うのか
• どの課題が最も強いのか
• どの機能が継続率に効くのか
• 料金を払う理由は何か

この状態で「完璧な仕様書」を作ろうとするのは、地図のない場所で“正確なルート図”を描こうとするようなものです。
正確にできるはずがない。

だから仕様の穴は悪ではありません。むしろ不確実性が高い局面で仕様が変わるのは健全です。

では、なぜ外注が失敗するのか。
答えはシンプルです。

変わるのが問題ではない。
変わったときに「誰がどう決めるか」がないのが問題。

外注が破綻する「意思決定の空白」あるある

ここからは、受託側として何度も見てきた“事故パターン”です。心当たりが1つでもあれば、仕様ではなく意思決定を整えるべきタイミングです。

1) 決裁者がいない(いるのに不在)

「最終決定は社長です」と言いながら、社長が忙しくて返事が来ない。
現場は止まり、受託側は“推測で進める”しかなくなる。

2) みんなで決める(=誰も決めない)

顧客、営業、CS、経営、現場が全員コメントする。
しかし「決める人」がいないので、結論が出ない。
出ても翌週ひっくり返る。

3) 目的が合意されていない

「この機能を作る」には合意していても、
「何のために作るか」「何が改善したら成功か」が合意されていない。
なので完成しても「なんか違う」となる。

4) 変更の扱いが決まっていない

「やっぱりこうしたい」が増えるのは当たり前。
でもルールがないと、変更がコストと納期を静かに破壊する。

5) 検証と受け入れの定義がない

受託側は「動くもの」を出す。
発注側は「使えるもの」を期待している。
このズレが、最後に必ず揉めます。

AI時代に受託開発がパラダイムシフトした点

ここ数年、受託開発ははっきり変わりました。
AIによって「作る」ことは速くなり、安くなり、試行回数が増えた。

つまり、以前よりも圧倒的にこうなります。
• 仕様は早く固めるより、早く試して学ぶほうが勝つ
• 変更は減らすより、変更を“管理できる形”にするほうが勝つ
• 実装はボトルネックではなく、意思決定がボトルネックになる

この構造変化の中で、外注成功の条件はひとつです。

発注側が「最小限の意思決定ルール」を用意できるか。

“仕様書の出来”ではありません。
“決める仕組みの出来”です。

MVP〜PMF前に発注側が用意すべき「最小のルール」4つ

ここが今日の本題です。
私はこれを 「最小の開発ガバナンス」 と呼んでいます。

大げさなプロセスは要りません。
むしろルールを増やすと、スピードが死にます。

必要なのは、揉めやすいポイントにだけ“最小の線”を引くことです。

ルール1:優先順位の決め方(誰が、何で決めるか)

失敗パターン
• その場の声が大きい人の意見で決まる
• 「全部大事」で順位がつかない
• 毎週トップが入れ替わり、開発が積み上がらない

最小ルール
• 最終順位を決めるのは誰か(1人)
• その判断基準は何か(1つか2つで十分)
• どの期間は順位を固定するか(例:スプリント中は固定)

おすすめの決め方(例)
• 1つ目:North Star(最重要指標)へのインパクト
• 2つ目:検証の確度(仮説の強さ・学びの価値)
• 同点のとき:実装が軽い方を先に試す(AI時代は特に効く)

ここで重要なのは「完璧な順位」ではなく、チームが迷わない順位です。
迷いがなくなると、スピードが出ます。

ルール2:変更の扱い(変更を“悪”にしない)

失敗パターン
• 変更が発生するたびに揉める
• 「言った/言わない」になる
• 受託側が守りに入り、提案が減る

最小ルール
• 変更は必ず「バックログ」に入れる(口頭で混ぜない)
• 変更を入れるなら、何を落とすかを同時に決める(Cut to Add)
• 変更を判断する期限(SLA)を決める(例:48時間以内)

実務で効く運用(例)
• 変更を3種類に分ける\

  1. バグ(仕様通りに動いてない)\
  2. 仕様変更(当初の理解が変わった)\
  3. 追加要望(新しい価値を足す)
    • 2と3は必ず「優先順位の再評価」を通す
    • “変更予算”を時間で持つ(例:スプリントの20%は変更枠)

    AIで実装が速くなると「じゃあついでに…」が増えます。
    その“ついで”が積み重なるのが一番危険です。
    だからこそ、変更を責めるのではなく 変更が入っても壊れないルールが要ります。

ルール3:検証の定義(完成より“学び”をゴールにする)

失敗パターン
• 動くものはできたが、使われない
• 受け入れ基準が曖昧で、検収が終わらない
• リリースしたのに、何が成功か分からない

最小ルール
• 何を検証するMVPか(仮説を1行で)
• 成功/失敗の判定条件(数値 or 行動)
• 受け入れ基準(Acceptance Criteria)とDefinition of Done(DoD)

例:仮説→検証定義
• 仮説:オンボーディングを簡略化すれば、初回アクション率が上がる
• 成功:初回アクション率が20%→30%(2週間)
• 最低条件:イベント計測を入れ、ダッシュボードで見える状態にする
• DoD:本番反映、ログ確認、計測値が取れていること

受託側は「機能」を作ることはできます。
でもスタートアップが本当に欲しいのは「学び」です。
この定義がないと、外注は“作業請負”になってPMFから遠ざかります。

ルール4:スコープ調整の権限(最後に揉める場所を先に決める)

失敗パターン
• 納期が近づいた瞬間に「全部必要です」となる
• 品質か納期かの判断ができない
• 結果として、品質も納期も崩れる

最小ルール
• スコープを落としていい人は誰か(権限者)
• 期限が来たら誰が何を決めるか(エスカレーション)
• 守る優先順位(品質>納期 or 納期>品質 など)

現場で効く宣言(例)
• 「リリース条件を満たさない機能は削って出す」
• 「スプリント末に“必須・あれば良い・不要”をPOが確定する」
• 「削る判断を受託に委ねない(委ねると揉める)」

受託側に「どれを削りますか?」と聞かれて、受託側が決めてはいけません。
その瞬間、受託は“責任”を背負うことになります。
責任の所在が曖昧なまま進むと、最後に必ず破裂します。

パートナーと「揉めない」ための合意項目チェックリスト

上の4つを土台に、ここからは契約書より先に合意しておきたい“現場の論点”です。
これが揃うと、驚くほど揉めません。

合意しておくと強い項目(最低限)

1. 意思決定者(PO/決裁者)は誰か:最終判断の1名
2. 意思決定の期限:質問に対する返答SLA(例:48時間)
3. 優先順位の決定方法:基準・タイブレーク
4. 変更管理:変更はバックログに、Cut to Add、変更枠
5. 検証定義:仮説、成功条件、計測の責任分界
6. 受け入れ基準(AC):何を満たせばOKか
7. Definition of Done(DoD):テスト、レビュー、計測、デプロイまで
8. 品質基準:許容するバグの種類、パフォーマンス目標
9. スコープ調整権限:誰が削るか、エスカレーション手順
10. コミュニケーション:窓口、ツール、定例の頻度、議事録の扱い
11. 環境とアクセス:リポジトリ権限、ステージング、本番運用ルール
12. “終わり”の定義:検収・支払い条件(成果物ではなく状態で)

ここまでが揃うと、外注は「発注者 vs 受託者」ではなく、
仮説検証を回す“チーム”になります。

1枚で回る「意思決定憲章」テンプレ(そのまま使えます)

ドキュメントは分厚くしない。
1枚にします。これで十分です。

意思決定憲章(例)

プロダクト責任者(PO):〇〇(最終決定者)
優先順位の基準:North Star指標への影響 × 学びの価値
順位固定期間:スプリント期間中は固定(例外はPOが承認)
返答SLA:質問は48時間以内に回答(難しければ暫定判断を出す)
変更の扱い:変更はバックログに登録。追加するなら同等工数を削る
検証の定義:各MVPは仮説・成功条件・計測イベントを必須とする
DoD:ステージング反映、最低限のテスト、計測確認、手順書の更新
スコープ調整権限:納期優先時の機能削減はPOが決定
エスカレーション:判断が止まったら〇〇(COO等)に24時間以内に上げる

この「憲章」があるだけで、受託側は迷わず動けます。
そして発注側も、意思決定の“負荷”をコントロールできます。

それでも決められないなら、外注の形を変えるべき

厳しいことを言いますが、MVP〜PMF前で外注がうまくいかない組織の多くは、
• 決裁者がいない/決裁者が時間を取れない
• 優先順位をつける覚悟がない
• 成功の定義を置けない

このどれかです。

この状態で「準委任で伴走してもらえばなんとか…」は、だいたい泥沼になります。
むしろ、その場合は
固定スコープの小さな発注に切る(例:計測基盤だけ、LPだけ)
ノーコード・AIで自走する範囲を増やす
社内でPO機能を立てる(最優先)

など、形式を変えた方が成功率が上がります。

まとめ:外注成功の鍵は「仕様」ではなく「意思決定の速度」

AI時代になり、作ることは速くなりました。
だからこそ、外注の成否はますますこう決まります。
誰が決めるか
何を根拠に決めるか
いつまでに決めるか
変更と検証をどう扱うか

仕様を詰めるより先に、意思決定を詰める。
この順番を守るだけで、外注は“揉めない”方向に一気に寄ります。

もし今、外注で詰まっているなら、仕様書を厚くする前に、
今日書いた「最小のルール4つ」と「意思決定憲章1枚」を導入してみてください。

プロダクトが前に進み始める感覚が、きっと戻ってきます。

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