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AIがプログラムするとエンジニアは不要になる!?
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AIがプログラムするとエンジニアは不要になる!?

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EEG Editorial

Content Team

「AIがコードを書くなら、もうエンジニアはいらないんじゃない?」 最近ほんとうによく聞きます。…が、正直に言うと、私はこの手の話を何度も見てきました。 マシン語からアセンブラへ。 アセンブラからCへ。 Cからスクリプト言語へ。 フレームワーク、ライブラリ、クラウド、IaC、ノーコード…。 そのたびに必ず湧くのが、 • 「特殊技能が不要になる」 • 「誰でもプログラミングできる」 • 「だからプログ…

「AIがコードを書くなら、もうエンジニアはいらないんじゃない?」
最近ほんとうによく聞きます。…が、正直に言うと、私はこの手の話を何度も見てきました。

マシン語からアセンブラへ。
アセンブラからCへ。
Cからスクリプト言語へ。
フレームワーク、ライブラリ、クラウド、IaC、ノーコード…。

そのたびに必ず湧くのが、
• 「特殊技能が不要になる」
• 「誰でもプログラミングできる」
• 「だからプログラマー/エンジニアは不要になる」

という“定番の結論”です。

私は受託開発のど真ん中で、現場と経営の両方を長く見てきましたが、結論から言うと今回も構造は同じです。
ただし――違いは、進化のステップが異様に大きいこと。
だから、影響も今までとは比較にならないくらい大きい。

この記事では、その「同じ構造」と「今回だけ桁違いに大きい変化」を、受託開発の視点で整理してみます。

1. 「エンジニア不要論」は、何度も“当たってきた”(ただし別の形で)

まず歴史を少しだけ。

マシン語 → アセンブラ

「人間が0と1で書く時代は終わる。職人技は不要になる」
…はい、終わりました。職人技のままでは食えなくなりました。

でも、エンジニアが消えたかというと、消えていません。
やっていることが変わっただけです。

アセンブラ → C言語

「ポインタすら分からない人がプログラムを書く。品質が壊れる。職がなくなる」
…結果は逆でした。作れるものが増えた。市場が広がった。仕事も増えた。

C言語 → スクリプト言語/フレームワーク

「もう難しいことはフレームワークがやる。コーディングは誰でもできる」
…確かに“できる”人は増えました。
その代わり、求められる水準は上がり、作るべきものは巨大化しました。

ここまでを一言で言うなら、こうです。

抽象化が進むと、実装の一部は誰でもできるようになる。
その瞬間、“その一部”だけやっていた人は不要になる。
でも、エンジニアという職業は消えず、価値の中心が上に移る。


今回もこの構造は同じです。

2. ただし今回は「ステップが大きすぎる」——コードの抽象化ではなく“仕事の抽象化”が起きる

過去の変化は主に、
• どう書くか(記述方法)
• どう作るか(実装工程)

の抽象化でした。

でもAIは、そこだけでは止まりません。

AIは「コード」を抽象化するだけじゃない

AIが得意なのは、コード生成だけではなく、
• 仕様の読み取り
• 自動テストのたたき台
• リファクタリング案
• バグ原因の推測
• ドキュメント整備
• 既存コードの要約
• APIの利用例作成

つまり、実装を中心とした前後の“周辺作業”まで飲み込みます。

ここが大きい。

そして、もっと大きいのが次です。

「プログラムとは呼べない仕事」が、プログラムになる

受託開発を長くやっていると、開発作業の周辺には“プログラムではないが、重要な仕事”が山ほどあります。
• ヒアリング内容の整理
• 議事録の要点抽出
• 仕様の矛盾探し
• 見積もり根拠の文章化
• テスト観点の洗い出し
• 問い合わせ対応の文面作り
• 障害報告の一次まとめ

こういうものは、これまで「人がやるしかない」とされてきた領域です。
ところが今、そこもAIが“手を出せる領域”になってきた。

つまり今回の変化は、
プログラミング言語の進化ではなく、仕事の部品化と自動化の進化なんです。

3. 受託開発の現場で実際に起きること:価値の重心が「実装」からズレる

受託開発の価値は、ざっくり言うとこう分解できます。\

  1. 何を作るか(要件・目的)\
  2. どう作るか(設計・アーキテクチャ)\
  3. 作る(実装)\
  4. 動かし続ける(運用・保守・改善)

    AIが真っ先に強烈に効いてくるのは、3)の「作る(実装)」です。
    特に次のような領域は、影響が大きい。

AIに吸収されやすい領域(増える/速くなる)

• CRUDの雛形(画面・API・DB)
• 管理画面の量産
• 変換処理、ETLの下書き
• 単純なバリデーション
• 既存コードのパターンに沿った追加実装
• 単体テストのたたき台
• 軽微なバグ修正
• 仕様書・READMEの整備

これらは「人がやると時間がかかるが、判断の幅は狭い」ことが多い。
AIが一番得意なタイプです。

一方で、次の領域はむしろ重みが増します。

AIが苦手/責任の所在が問われる領域(価値が上がる)

• 要件の曖昧さを“仕様に落とす”
• 仕様の矛盾・抜け漏れを潰す
• トレードオフ(速度/コスト/安全性/将来性)の決断
• 障害時の切り分けと意思決定(止める?戻す?迂回する?)
• セキュリティ、権限設計、監査対応
• データの意味(ドメイン)を理解したモデル設計
• 他システム連携の地獄(例外だらけの現実)
• 性能・負荷・可用性の設計
• 運用設計(監視・アラート・手順・教育)
• 顧客・ユーザー・社内の利害調整

要するに、「正しさを決める仕事」「責任を負う仕事」が残る。
そして残るどころか、相対的に価値が上がります。

4. 「エンジニア不要」ではなく「“実装だけの工程”が不要」になる

ここで一度、刺激的なタイトルに真正面から答えます。

AIがプログラムすると、エンジニアは不要になるのか?

“ある種類のエンジニア”は不要になります。

具体的には、
• 指示待ちで
• 仕様の背景も知らず
• 設計判断もしない
• ただタスクを受け取って実装する

このスタイルだけで成立していた役割は、縮みます。
これは残念でもあり、同時に健全でもあります。
なぜなら、その工程は「本質」ではなく「作業」だからです。

ただし、ここで誤解が起きやすい。

作業が減る=仕事が減る、ではないんです。
多くの現場で起こるのは、
• 実装が速くなる
• その結果、要求が増える(「じゃあこれも」「次はあれも」)
• そして品質責任・運用責任が重くなる
• 仕様の解像度を上げる必要が増える

という、別ベクトルの圧力です。

AIで速くなるぶん、世界は優しくならない。
むしろ「じゃあもっとできるよね?」が始まります。
(文明の進歩、だいたいこのパターンです。洗濯機ができたのに家事がゼロにならないのと同じです。)

5. 「プログラムの定義」が変わる:プログラムだと思っていた仕事が、AIの仕事になる

今回の変化の核心はここです。

これまで私たちは、
• ソースコードを書くこと
• それをコンパイル/デプロイすること

を「プログラム」と呼んでいました。

でも今後は、
自然言語の指示
制約条件
評価基準(テスト、KPI、受け入れ条件)
運用ルール

これらを含めたものが「プログラム」になっていく。

つまり、

“何をどう評価するか”まで含めてプログラム
になる。

これが起きると、価値の中心は「コードを書く」から「コードに書かせる条件を作る」に移ります。

そして、ここでエンジニアの仕事は終わりません。
むしろ新しい仕事が増える。
• AIに何を任せ、何を任せないかの設計
• AI出力の品質保証(レビュー・テスト・検証)
• 事故が起きたときの責任設計
• 再現性・監査性の確保
• データの取り扱いと機密管理
• “便利”と“危険”の線引き

要するに、エンジニアの役割は

「書く人」から「仕組みを成立させる人」へ

移行します。

6. AI時代のエンジニアに必要な力は「問い」と「検証」と「運用」

これから強いのは、タイピングが速い人ではありません。
(タイピング勝負なら、AIは指が無限にあります。こちらは腱鞘炎が先に来ます。)

強いのは次の3つができる人です。

1) 問いを立てる力

• 何が目的か
• 何を成功とするか
• どこまでやれば十分か
• 何はやらないか

AIは「答える」のは得意ですが、良い問いを立てるのは苦手です。

2) 検証する力

AIがそれっぽいコードを書いたとき、必要なのは感想ではなく検証です。
• テストで担保できるか
• 異常系は?境界条件は?
• 性能は?負荷は?
• セキュリティは?権限は?
• 運用で詰まらないか?

“それっぽい”を“使える”に変えるのが仕事になります。

3) 運用する力

受託開発で痛いほど分かるのは、
本当に難しいのは「作る」より「動かし続ける」という現実です。

AIで実装が速くなればなるほど、
• 変更頻度が上がる
• 事故が起きる確率が上がる
• 監視と復旧の設計が重要になる

だから運用を分かっているエンジニアの価値は上がります。

7. 受託開発会社が取るべき戦略:納品物を「コード」から「成果」に寄せる

経営の話を少しだけ。受託開発の構造も変わります。

これまでの受託は、極端に言えば
• 人月=工数=価値

というモデルで回っていました。
でもAIで工数が圧縮されると、ここが崩れます。

今後、受託で生き残る(というより伸びる)には、納品物をこう変える必要が出てきます。
コード納品 → 成果納品
作りました → 回ります/伸びます/減りました(コスト・事故・問い合わせ)
実装が中心 → 仕様・検証・運用が中心

そして、現場の実務としては次のような仕組みが効きます。
• 受け入れ条件(Acceptance Criteria)を先に固める
• テストを契約上の成果物に近づける
• AI生成物のレビュー基準を標準化する
• 監査ログ、再現手順、運用手順を“最初から”作る
• 仕様の曖昧さを減らすためのヒアリングテンプレを持つ

AIを入れるだけでは勝てません。
AIで回る開発プロセスを設計した会社が勝ちます。

結論:不要になるのは「エンジニア」ではなく、「エンジニアという肩書きに甘えた作業」

最後にまとめます。
• 今回の構造は、過去の抽象化と同じ
• ただしステップが大きく、影響範囲が“実装”を超える
• プログラムの定義が変わり、仕事が再配分される
• 「実装だけ」は縮む
• 「問いを立てる・検証する・運用する・責任を持つ」は価値が上がる

だから答えはこうです。

AIがプログラムしても、エンジニアは不要にならない。
ただし“実装だけの役割”は薄くなり、
エンジニアの価値は上流と運用へ移る。
そして、作れる世界が広がるぶん、仕事はむしろ増える。


AIは「職を奪う怪物」というより、
“仕事の定義”を書き換える編集者に近い存在です。

編集されたあとに残るのは、
「何を作るべきか」「どう安全に動かすか」「誰が責任を持つか」。
つまり、人間が担うべき“意思決定の仕事”です。

うまく付き合えば、エンジニアは不要になるどころか、
より面白い仕事に集中できる時代になります。
(腱鞘炎のリスクも減る。これは個人的にかなり重要です。)

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